押さえき~れな~い

ここ10年程でしょうか、無性にピッチャーになりたくなります。 

というより、気がつくと一連の投球動作をスローモーションで行っている時があります。動作中、思い描いているのは『タッチ』のエンディングの映像で、指先からボールが離れる瞬間のあの細やかさを実際に再現してみたりしています。 
自らの投球フォームを確認しつつ、指先まで神経を注入し、投げ終わった後の表情や、三振に打ち取ったあとにまたボールを受け取るまで、丁寧にスローモーションで行います。

ゆっくり振りかぶる…(真剣な目) 

左膝を抱えるように腕を下ろす…(キャッチャーミットを睨む) 

広げた両腕、左足を踏み込んだときに土が舞う… 

伸びた右腕…、そして放たれるボール… 

『タッチ』… 

帽子がズレる… 

「ストライ~クッ!バッターアウト!」 

帽子をとったその腕で額の汗を拭います。 

そんなマウンドに立つ僕を見て、女の子の黄色い声援が遠くに聞こえています。 

その聞こえている声援に気づいていながらも、とぼけたキャラで 
「…え?」 
みたいなそぶりをして、いかにも 

―今はボク…、ボールしか見えないんだ― 

的な健気な表情でボールを握りなおす… 

はい。 

と、ココで我に還り、僕は痛切に思うのです。 

カッコイイって言われてぇ~。と。 

この一連の衝動から動作、最後の台詞までの流れを僕は 
『ピッチャー病』と呼んでおります。 

日々生活していると、こういったどうしようもない衝動が湧き出てくる事があります。他にも、 
『抱きしめたい病』 
『クロール病』 
『バスドライバー病』 
『グループ交際病』 
『武富士病』 
など、いろいろな衝動に遭遇します。 

少し解説すると、 

●抱きしめたい病 
いきなり、無性にカッと抱きしめたくなります。 
何を?かは判らないんだけど、例えば、離れ離れになっていた子供だったりかもしれないし、恋人と 
「バカッ!アンタなんて大嫌い!」 
「へんっ!オレだってお前なんかいなくなって清々するよ!」 
「もう遭う事はないでしょうね!サヨナラ!」 
「あぁ!サヨナラ!さっさと行っちまえ!」 
「バ~カ!大嫌い!」 
「オレだって大嫌いだよ!」 
「大ッ嫌い!」 
「ウルセェ!」 
「だいっき…らい…。」 
「…。」 
「だいっきら…!」 
「…。」 
「好き!!」 
「好きだ!行くなよ!」 

―カッ!―(抱きしめる) 

と、いうシチュエーションだったり、なんでも良いのですが、とにかく抱きしめたくなる衝動です。この衝動は、両手で「カッ」と抱きしめる動作を何度か繰り返す事でおさまります。 

●クロール病 
横たわっている時に、無性にクロールをしてみたくなります。 
畳の上などで実際にバタ足付きでクロールをしてみます。この時に手のかき方、息継ぎ時の表情などに気を配ります。 

●バスドライバー病 
車を運転時に無性にバスの運転手になりたくなります。 
ある目標地点を設定し、そこを通り過ぎるときに、右手でボタンを押す動作などを実際にしてみます。他のバスとすれ違うときには手を挙げてみます。 

●グループ交際病 
無性にグループ交際をしてみたくなる衝動です。 
日常生活においては、架空の異性を設定し、ちょっとお互い「いいなぁ~」と思ってて、その人を意識しちゃって、気を引く仕草や表情などをしてみたりします。外出時などではその目当ての人の居場所を何気なく探してみたりします。 

●武富士病 
いきなり武富士張りのモダンダンスを踊りたくなる衝動です。 
頭の中で鳴っている、テレテテンッ♪の音に合わせて、顔と両腕を反らせてキメキメのポーズを唐突にとってみたりします。 
情熱的な表情から一変、いきなり笑顔になってみたりします。 

上記以外にも沢山の衝動と、日々、共生しております。 

ちなみに今日は『かめはめ波病』です。