はじめてのお年玉

先日実家で探し物をしていたら、本棚の側面に、幼い頃に貼ったシールを見つけてすごい懐かしくなりました。ギャンです、ガンダムの。ギャンがあの頃のまま荒野にたたずんでおりました。とってもなつかシールでした。 
それは25年くらい前、幼稚園の頃にお年玉で買った、僕の記憶では「初めての買い物」で手に入れたものでした。 

僕には兄が2人おります。当時僕が幼稚園の年長さんだったとすると、長兄の竜太(仮称)は6コ上なので小学6年生、次兄の惣太(仮称)は2コ上の小学2年生でした。ちなみに当時はママと呼ばれていたおかんが32コ上で38歳でした。 

ウチは両親が共働きだったので、僕は幼稚園から帰ると親しいおばちゃんの家に預けられ、夕飯前くらいの時刻に家に送ってもらっておりました。 
年も開けて幼稚園の冬休みも終わり、寒空の夕暮れをおばちゃんの自転車で一緒に歌いながら帰った、そんなある日の事でした。 

家に帰って居間に入ると、惣太が何かを隠しました。見ると竜太と惣太が向かい合って座っており、その2人の間にあった「何か」を座布団で覆ったのでした。 
「ただいま!なんだよう、なに隠したの?」 
僕が聞くと、小学2年生の惣太は、幼稚園児の弟に向かっていきなり 
「だめだ!なぜならお前はチビだからだ!」 
と言いました。小学6年生の竜太は正座したまま瞳を閉じ、腕を組んだまま何か考え事をしているようでした。惣太はさっきから、あっち行けチビ!と執拗に僕を追い払おうとしておりました。 
帰ってきていきなりのこの仕打ち。幼稚園年長の典太(仮称・僕)はイジケたい気持ちを抑えて精一杯立ちすくんでおりました。ここでイジケたら僕だけ仲間はずれだ!何かすごく良い物を隠したに違いない!僕も知りたい!何なのだ!僕に内緒で何をしていたのだ! 

泣きたい衝動を必死で抑えて立ちすくんでいると、長兄竜太が静かに目を開け僕を見て、ゆっくりとした口調で言いました。 
「典太よ、お前は男か?」 

僕は一瞬戸惑いながらも「男だ!」と言いました。 

「もう一度訊く。典太よ、お前は男の中の男か?」 

僕は間髪入れずに「男だ!」とよくわかんないけど言いました。 

「座れ。」 

惣太は「いいのかい?アニジャ」とでも言わんばかりの不満顔でしたが、竜太は僕を惣太の隣に座らせると「いいか?これは男と男の約束だぞ?」と真剣な目で訴えてきました。「うん。」と言うと「男と男の約束を破ったら、お前は女の腐ったのだからな。」と怖い目をして言いました。と、隣の惣太も「女の腐ったのだからな!フン!」とリピートしてきました。 

「うん。」 

竜太が座布団に手をかけました。惣太が「女の腐ったのだからな!フン!」とまたリピートしました。そして竜太が座布団を開けると、、、 

絨毯には目を疑うばかりの数々のガンダムのシールが広がっておりました。 

「うわー!うわー!」 

歓声をあげる僕に竜太は優しく頷き、惣太は「うるせえ!」と僕の頭をひっぱたきました。 

宇宙に迫り来るシャアザク、突如現れたビグザム、宇宙にビームライフルを放つ片腕のガンダム、荒野に佇むギャン、森を突進するドム、、、、、 

そこではガンダムの名場面を彩る数々のモビルスーツ達のシールが、絨毯の上を縦横無尽に駆け巡っておりました。と、見ると、そのシールの内の何枚かは惣太の前に並べられ、竜太の前には何枚かの百円玉が置かれておりました。 

惣太は僕を無視して竜太に 
「じゃあコレは?このシャアザクは?」 
竜太はちょっと難しい顔をして 
「う~ん。シャアザクは強えからなぁ。コレだな。」 
と指を4本立てました。 

そうです。今思えば『競り』だったのです。そして、今思えばそのガンダムのシールは、駄菓子屋で束になってる袋に入って20円とかで売ってたやつなのです。でも当時は惣太も僕もそんなことは知りません。お年玉の使い道だって知らない頃です。だいたいお金の価値もよくわかっておりませんでした。 

惣太は悩んでおりました。惣太が大事に握りしめてる巾着袋にはお年玉とお手伝いで貰ったお駄賃が入っておりましたが、そのシャアザクを竜太が出す前に既にザクやジムなどのしょっぱめのアイテムを掴まされているようでした。 
と、 

「典太はどうする?」 

竜太の一言にハッ!として、僕は「ちょっと待ってね!」と言ってお財布をとりに行きました。 

きっとアレだ!お金と交換するんだ!パパがお土産にくれた『おさいふ』とかいうのにお年玉とか入れたはずだ!たまにママが『おだちん』って入れてくれてたやつだ!あの『おさいふ』の中のヤツと交換するんだ! 

惣太の「なんだよぅ!典太はチビだからだめだ!」の罵倒を尻目に、『典太タンス』の中に財布を探しました。 
そして『おさいふ』を持って急いで競り市場に戻ると、「ふぅ。」とか言いながら既に惣太が400円でシャアザクを落札しておりました。 
「待っててって言った!僕は待っててって言った!」 
と抗議しましたが、シャアザクは惣太の前に大事そうに並べられておりました。 
と、その時、兄2人は手の平を掲げて声を揃えて何か言いました。 
何だろ?と思いましたが、なぜだ!待っててって言ったのにいぃぃ!と僕はくやしさでいっぱいでした。泣きそうになるのをこらえていると惣太が「お前はチビだからだめだ!」って言いました。すがるように竜太を見ると、竜太は僕に言いました。 

「典太。ギャン、知ってるか?」 

うん。知っている。ただ、あんまカッコよくねえ。 

惣太は横から「ギャンだせぇ、プププッ」とか言っておりました。 
そうです。幼い僕もギャンはだせぇと思ってました。オカマみたいなヤツが乗ってるし。なんか盾が傘みてえだし。てゆうかオカマだし。 
そんな弟達を微笑みながら見ていた竜太は、いきなりカッと目を見開き、 

「ギャンが一番強え。」 

と驚くべき一言を発しました。 

な、何ぃーーーーーーっ!!!? 

強えのか?ギャン、一番強えのか?兄者! 
横で同じく驚いている惣太が執拗に 
「嘘でしょ?ゲルググより?シャアゲルより強えの?ホント?それホント?」 
と焦っておりました。 

買うしかねえ。 

僕は慌てて言いました。 
「うん!知ってる!ギャン一番強え!僕ギャンが一番欲しい!」 

と、竜太はまた腕組みをして瞳を閉じ、ゆっくり目を開くと 
「典太はまだちっちゃいからな。おまけしてやる。」 
と、傍らの小さなシールをギャンに重ねて 
「コレもつけて、銀色のやつをコレだ。」 
と、嘘みたいにちっちぇえエルメスのシールをおまけにつけて指を4本立てました。惣太は何ぃーーーーっ!?シャアザクと一緒の400円だとぉーーー!?そんな強えのか、ギャン!見くびっていたぜ、ギャン!と、何とか弟のチビが『一番強えギャン』を手に入れるのを阻止しようとしておりましたが、僕は『おさいふ』から4枚の『銀色』を出しました。 

「それではない。」 

バーカ!それ1円玉じゃねえか!と惣太に頭を叩かれながら、どれかよくわかんないのでコインを全部出しました。そこから勝手に取られたのでお金を払ったという感覚はありませんでしたが、それが僕の記憶に残る最初の買い物でした。 

と、兄2人がまた手の平を掲げておりました。 
竜太は僕に 
「男の中の男だな?」 
と言いました。僕は 
「男だ!」 
と言いました。惣太がお前も手を挙げろチビ!みたいに見てきました。 

「男と男の約束は、どんなことがあっても破ってはいけない。わかるか?」 
竜太は真剣な顔で僕に言いました。 
「はい。」 

「男と男の約束は、女にはしゃべってはいけないんだぞ?わかるか?」 
「はい。」 

「じゃあ、右手を挙げろ。」 
「はい。」 

「しゃべったら、女の腐ったのだからな。」 
「はい。」 

「男と男の約束は、女のママには絶対にしゃべっちゃいけないんだぞ。」 
「はい。」 

・・・では、いきます。オレのマネをして誓いなさい。 

『ママには言わないブロッケン!!!』 

(ママには言わないブロッケン!!!) 

その後、何枚かのシールと『おさいふ』の中のコインを交換するたびに、手の平を掲げては「ママには言わないブロッケン!」と三兄弟は叫びました。 
と、そんな中、玄関のドアが開く音がしました。竜太は「ハッ、敵だ!」と言い「隠せ!」とすぐさまお金とシールをかき集めて自分の巾着袋に入れ、弟達にもシールとお金を隠すよう指示をし、TVをつけてガハハハ笑い始めました。 
僕はポッケの中にシールをしまって「やった!大人になった!」とホクホクしておりました。 

そして夕飯を食べ、お風呂に入ろうとした時です。 
何故かおかんが僕の『おさいふ』を手に取り、怪訝そうな顔をしていました。 
それを見た僕は子どもながらに「しまった!」と思いました。 

と、おかんの背後に竜太が立ち、僕にだけ気づくように手の平を掲げておりました。 
僕は(わかってます、兄上。男と男の約束です。敵には漏らしますまい)と黙っておりました。 

おかんは 
「ねえ、典太、ママお店で細かいお金なくなっちゃったから典太に交換してもらいたかったんだけど、無くなってるね、どこにしまったの?」 
と訊いてきました。僕は、おかんの背後で目を見開いて手を挙げている竜太をチラッと見て(わかってます、わかってますってば、兄者)と頷き、 
「知らないよー。」 
とだけ言い、そそくさとお風呂に入る準備をしていました。 
僕にとってはおかんより竜太に怒られる方がそれはそれは恐怖でした。 
「ふーん。」 
と、おかんが背後の竜太の気配に気づき、振り返ると、さすがの竜太は 
「オレが典太をお風呂に入れるよー。」 
としらばっくれていました。お風呂の中で念を押すつもりだったのでしょう。 
と、その時、トイレから出てきた惣太がおかんに捕まりました。 

「ねぇ惣太、ママ細かいお金欲しいんだけど、交換してくれない?」 

事態を察知した竜太はすばやくおかんの背後に回り、惣太にだけ見える角度で、目をクワーッと見開き、手の平を掲げて合図しました! 
(貴様、わかっておろう!) 
咄嗟の事に戸惑いながらも大きく頷いた惣太は、自信満々に 

『ママには言わないブロッケン!!』 

大きな声で叫びました。 

何故かママに向かって大声で叫んでしまったのでした。 

その後『幼い弟達に法外な価格でガンダムのシールを売りさばいた容疑』でおかんに逮捕された竜太は、弟達の目の前でズボンを下ろされ、おかんにお尻をバチコーン!バチコーン!と叩かれまくりました。そして巾着袋を出させられ、売上金と売れ残りシールをすべて奪い取られた竜太は、おしりを叩かれながらも尚、弟達に向かって右手を掲げつづけたのでした。


10年越しのホタル

天然なのか、はたまた誰か大切に守ってくれている方がいるのか。 

家から車で20分くらい、山の中の小さな河のほとりで、 

蛍見てきました。 

すごい心が静かになりました。 

無理やり心を賑やかしたくなるくらいです、なんか。 
もっさい男6人で、真っ暗な山裾の森をかきわけて見に行ったんですけど、初めは小さくてよるべない光を見つける度に「おぉ!」とか「すげぇ!」とかあがっていた歓声が、しだいに「綺麗だね」とか「あ、あそこにも・・・」とかおセンチな吐息に変わっていってました(笑)みんなもっさもさのくせして。 

小さい緑の光を見つめながら、今度、一人でボーッと眺めに来ようかなって思いました。そんで、その後、妻と子供を連れて来たいなぁ、と。 

蛍を見たのって10年振りくらいかなぁ。 

そういえば、10年前の僕は人生の転機を迎えておりました。 
大袈裟かもしれないけど、その時期を境に物の考え方や心境は一変しました。 
そんな文字通り心機一転な毎日を過ごしていた時に、思いがけず失恋はやってきたんです。4年近くつきあっていた相手にフラれたのでした。 

「あぁ、つき合ってる時に交わした言葉とか約束ってなんて儚いんだろう」 

ってその頃何度も思いました。 
好きとかそういう言葉とか、何処そこへ行こうとか、その時の感情なんて幻みたいなもんだ、そういう相手の気持ちや言葉なんて二度と支えになんてするものか、って何度も思ったし。 
なのに未練から思い出すのはそう言い合ってた頃の事ばっかりでした。 

その中に「一緒に蛍を見よう」というのがあったんです。 

僕の通ってた大学には蛍の飼育や保全をしてるサークルがあって、そのサークルは年に数日「蛍の夕べ」みたいなのを開催してました。 
その一年前にもその「夕べ」が開催されてたのですが、一緒に見る約束を僕はすっぽかしており、それは一年越しの約束となっておりました。でもその年に訪れた約束の日の頃には、彼女の気持ちは別の男性に傾きかけてました。 

「あんなに一緒に見たいって言ってたじゃないか」 

その約束をきっかけになんとか元に戻れないものかともあれこれ思案しましたたが、結局2年続けて一緒に蛍を見る事はできませんでした。 

とまあ思い返したら、10年前振りだと思ってたけどあの時はさんざん騒いだだけで、実際に見るのは小学生の時に静岡のおじちゃん家で見た以来、実に20数年振りだったのでした(笑) 

なんて言ったらしっくりくるだろ?って、さっきの光景をずっと思い返してたんですけど、ふと【幽玄】って言うのが浮かんだので調べてみました。 

ゆうげん【幽玄】(名・形動)[文]ナリ 

(1)奥深い味わいのあること。深い余情のあること。また、そのさま。 

(2)奥深くはかり知ることのできない・こと(さま)。 

(3)優雅なこと。上品でやさしいこと。また、そのさま。 

(4)中世文学・中世芸能における美的理念の一。余情を伴う感動。 

あぁ、これですね。日本語ってすごいなぁ。ホントこんな感じでした。 

でも、一人で見るのってよく考えたらあんな暗い中に幽玄すぎちゃって怖い気もするので、やっぱ今度は嫁と子供連れて行こうって思いました。 

そしたら10年越しに約束が果たされます。 

(引用) 
ホタルは水の美しい所にしか暮らしません。 
私は水の美しい所とは、そこにすむ人の心も美しい所だと思います。 
自然と人間の両方の豊かさと清らかさがとけ合った所に、ホタルは飛ぶのかもしれません 

もしかしたら、 
あの頃の想いも小さい緑の光になって飛んでいるのかしら。キャッ 

今夜は昔読んだ「蛍川」って小説を読んで寝まーす。 

つか、明日ライブです!ヒマな人は見にきてね!


スカイライダー

今日、ふと気づきました。 

そういえば、ここんとこ、腰のレバーを使ってなかったなぁ、と。 

小さい頃から、僕の右の腰にはレバーがついています。 

たぶん幼稚園の頃にそのレバーの存在に気づいたんだと思います。 

歯医者に行く前にはそのレバーをグイッと上にあげました。 
溜まってしまった公文の宿題を一気にやらなきゃいけない時もそのレバーをあげました。 
学校に遅刻しそうになって猛ダッシュする時も。 
サッカーの試合で絶対に点を決めてやる!って思った時も。 
親が喧嘩している時も。 
中学の時はテスト勉強の前にも。 
好きな娘が自分の友達の事を好きだという噂を耳にした時も。 
病気をしてケツから管を入れられて検査する時も。 
駅の本屋を出たら他校の生徒に囲まれてしまった時も。 
バイトで物凄いムカツク先輩に所作を教わっている時も。 
失敗をして取引先にひたすら謝りに行く時も。 
仕事が溜まって徹夜が続く時も。 

とにかく色んな場面でレバーをグイッとあげてきました。 
見えないけど、確実に僕の右の腰にはレバーがあるんです。 

話は変わりますが、去年の暮れに妻と1歳半の息子とディズニーランドに行きました。 
夜のパレードを見るために場所をとっていると、近くに光る石を売るお姉さんがやってきました。見る物すべてが楽しくて仕方ない息子は、終始おぼつかない足ではしゃぎ回っていたのですが、そのミッキーの形をした青く光る石のペンダントを見ると途端に足を止め、ジーッとその石を見つめ続けたのでした。 
僕は、これをあげれば少しは落ち着くかもしれないと思い、その石を買って息子の首にかけました。 
すると、息子は嬉しそうに手に取って顔に近づけ、今度はそれを自慢するようにまた辺りを駆け巡りはじめました。 

その日以来、僕はそのミッキーの光るペンダントを「勇気の石」と呼んで、息子がぐずると引出しから出して息子の首にかけていました。 
息子は何か気に入らないことがあったりすると僕の部屋に行って「だぁぁぁ!」と布団に突っ伏した後、勇気の石を探すみたいです。 

小さい頃、僕はスカイライダーが大好きでした。 
幼稚園に行くとき以外は、常に変身ベルトを装着しておりました。 

スカイライダーは、仮面ライダーの中でも「飛べる」ライダーです。 
ベルトの脇のレバーをガチャッてやって飛ぶんです。 
ガチャッってやったら無敵なんです。