『49』

僕のよく行くコンビニ(以前に日記に書いた「早撃ちミック」も働いてるセブンイレブン)にとても綺麗なお姉さんがおります。 

たぶん歳は20代後半くらいなんですけど「この人芸能人にでもなれるんじゃないか?」ってくらいの器量良しで、ちょっと見ているだけで「おぉ、動いてる!」とか思ってしまいます。可愛いよりも「美人」て感じで、スタイルが良くて、いかにもクールな目つきや仕草に僕はしばしばシビレてしまいます。それでいて、お釣りを渡す時、僕の手に触れてきます。アレはたぶん僕の事が好きなんだと思います。 

ときに、そのお姉さん、今日は僕がお茶とおにぎりを買おうとしたら、 
「コレ、温めます?」 
と聞いてきました。ビックリしました。 
いくら僕に気があるからってちょっと馴れ馴れしくないですか? 
普通なら「こちら、温めますか?」とかでしょ。 
んったぁく、気があるのもホドホドにしとけよな、と思いました。 
なので僕はちょっとクールに、 
「あ、いいです」 
と答えました。すると彼女、咄嗟にうつむいて、せっせとスキャンした商品を袋の中に入れ始めました。きっと涙をこらえていたのでしょう。 
溢れ出す想いをどうしたらいいかわからなくなってしまったのでしょう。 
僕は心の中で、 
(バーカ。おめぇの瞳で、充分温まってるっつーの) 
とフォローしてやりました。 

そしてお金を払いました。 
300何円とかで細かいお金でも出せたんだけど、僕は千円札を出しました。 
彼女は、 
「1000円からで・・・」 
と言いました。最後まで言葉にできないくらいの僕への想いが、僕の顔を覗き込むその熱い眼差しからも伝わってきました。 
「はい。」 
僕は単刀直入に、用件のみをシンプルに解答しました。 

(フッ・・・) 

と、その時でした。 

レジを打ち、レジの金庫を開ける時に、彼女は 

『49』 

のボタンを押しました。 

(ん?) 

(・・・49?) 

ハッ!!! 

僕は我が目を疑いました! 
(い、今確かに『49』を押した!?) 
僕は視界の脇に見える『49』のボタンと彼女の顔を、 
いや、僕への想いで思わず潤んでしまっているはずの彼女の瞳とを 
テニスの審判ばりの首の振り方で交互に見やりました! 

僕もセブンイレブンでバイトしてたから知っている・・・ 
レジで最後に押す10コのボタンが意味するものを・・・ 
水色とピンクそれぞれ『12』『19』『29』『49』『50』と1ボタンがあって 
彼女が押した、水色の『49』は・・・ 

「消費者 = ~49歳(おっさん)」 

を意味する事を!!! 

―アハハハッ♪― 

―アハハッ♪キャーッ♪やめてよやめてよ~♪― 

―えぇぇ?つーか、なにこのおっさ~ん、超ウゼー。つか超クセーし。― 

―プッ。あいたたたっ、このおじさんいたすぎますぅー!― 

―えー?ウソウソ?自分が20代に見られると思ってわけ?逆に心外ー!― 

―てかこいつぅ、お釣り渡すとき手ぇ握ろうとすんのマジキモいんだけど― 

―たまにさぁ、「いいです」とか「はい」とか声裏返ってんし、キショッ― 

―「君の瞳で、温まってます」とか言われたら何か感染しそーじゃね?― 

―あぁ”、どいつだよキモイおっさんて、・・・え?マジこのおっさん?― 

―あれ?おれこいつ見た事あんよ、たまに独りでニヤついてる奴だよ― 

―アハハッ♪キャーッ♪やめてよやめてよ~♪― 

―アハハハッ♪― 

(うわあああああああ!!!!!やめろぉぉぉ!!やめろぉぉおおお!!) 

 ピトンッ 

(ハッ!?) 

「612円のお返しになります」 

そこには、僕の小汚い手を優しく包むように、 
手を添えて両手でお釣りを渡してくれる、 
一見クールなだけど、エクボの可愛いお姉さんの笑顔がありました。