ヤマブキ

時間差ですけど、、、 

先週末、花団カズのワンマンライブの司会をするために八王子に向かう途中、ふと思い立ってじいちゃんとばあちゃんトコ、そして幼馴染みの眠ってるトコにお墓参りに行ってきました。 

ちょうど、とあるお花屋さんの母の日ギフトのカタログを作っているので、そのお店でお花を買い、気持ち良い春の陽気の中を山に向かって車を走らせました。あぁタバコやめてえなぁ~とか思いながら道端を見ると、山の裾野ではヤマブキが黄色い粒を光らせておりました。 

そういえば、、、 

60歳を越えた母の一番古い記憶は、3歳の時の記憶だそうです。 

黒い服を着た知らない大人達が4人、白くて小さな木の箱を担いで田舎の畦道を山に向かって歩いていく。その後を3歳の女の子だった母は一人でとぼとぼついていく。自分が泣いていたかどうかはわからない。その時お父ちゃんやお母ちゃんやお姉ちゃんは一緒にいただろうか、いや、たぶん1人だったと思う。たった1歳の可愛い弟が小さな木の箱に入れられて、知らない大人達に連れて行かれる。しばらく歩いた道端には綺麗なヤマブキが咲いていた。そして、かわいかった弟は死んでしまったのだと知った。というものです。 

そんなことを考えているうちに、僕は自分の古い記憶を片っ端から思い出してみたくなりました。果たしてどの記憶が一番古い記憶なんだろう、と。 
幼稚園の時に友達ととっくみあいのケンカになって、倒された時に見上げたジャングルジムみたいな遊具。 
はじめて二段ベッドの上に登ったときに見つけた、兄貴の大事にしてたおもちゃのレコードプレイヤー。 
コタツで寝てたら親父が抱っこしてくれたので、蒲団に連れてってくれるまで寝たふりをしてた時の親父の胸のニオイ。 
ウチに住み込みで働くことになったヒロミちゃんと初めて一緒に寝た時のヒロミちゃんのニオイ。 
どれが一番古いのか、思い出していくうちにごちゃごちゃになってわからなくなっていきました。そのうちに、幼稚園の頃にずっと一緒に住んでた「ヒロミちゃん」のことばっかりを思い出していきました。 

ヒロミちゃんがバイクが欲しいって言って母に叱られた時のこと。 

ヒロミちゃんの膝に乗って一緒にバイクに乗った時のこと。 

夜、ヒロミちゃんが電話してて、僕に「何か話して」って言うから替わったら、男の人に「こんばんは、はじめまして」って言われたこと。 

よく美味しいスパゲッティを作ってくれたこと。 

ヒロミちゃんと庭でカラーボールでキャッチボールをしたこと。 

僕は上から投げるのにヒロミちゃんは下からふわっとした球しか投げなかったこと。 

いつの間にかヒロミちゃんが泣いていたこと。 

「もうのんちゃんとキャッチボールするの最後になっちゃったんだよ」と言ったこと。 

次の日の午後、知らないおじさんの横に座ってたヒロミちゃんが泣きながら母に「先生、本当にありがとうございました」って何度も言ってたこと。 

そして、その日の家への帰り道にはヒロミちゃんはいなかったこと。 

母と二人での帰り道、母が知らない家の塀の上から垂れる黄色い花の枝ばっかりを見上げていたこと。 

ふいに母がこっそりその花の枝を折って盗り、僕の手を引っ張って「逃げよっ」って言ったこと。 

母が物凄く悪いことをしたと思って母を睨みながら「ドロボーだ!」って言ったら、母が「花泥棒に罪はなし」って言って微笑んだこと。 

その時、母が泣いていたことに気づいたこと。 

話がだいぶ逸れましたが、母が今の僕くらいの歳の頃、知り合いの福祉関係の人からの頼みで、いわゆる孤児であったヒロミちゃんを引き取りました。中学を卒業したばかりのヒロミちゃんは、僕が幼稚園に入園する春にウチに来て、住み込みで働きながら、僕たち兄弟の面倒もよく見てくれていました。 
母はヒロミちゃんをたいそう可愛がっていました。ひょっとしたら、同じように中学を卒業して単身住み込みで下働きをした自分とどこか重ねていたからかもしれません。でもその期待に応えながらもヒロミちゃんはウチで二年間働いている間、密かに施設でずっと一緒だった男友達と連絡を取っており、その後、二人は駆け落ちするみたいに一度戻った施設を出て、一緒に食べ物を出すお店を始めたのだそうです。 
その後、ヒロミちゃんはその人と結婚し、子供二人を育てながら幸せに暮らしていると母に手紙をくれたそうです。 

実家の美容室の鏡の脇では春になると誰かが持って来てくれるのか、はたまた母が盗んでいるのか、ヤマブキがやさしく黄色い花を垂らしています。 

持って来たお花を持って、桶に水を入れて幼馴染みのお墓に向かいました。 
久しぶりだったので場所が分かるか不安でしたが、幼馴染みのお墓には綺麗なお花がいっぱい供えられていたので、すぐに見つけることができました。 
4つ歳上だったのに、いつの間にか僕の方が6つも歳上になっていました。 
その後、じいちゃんばあちゃんのお墓に行ったのですが、悲しいことに僕が一番乗りだったみたいでした。お花が少ししか残ってなかったので売店に行ってお花を買いました。 
墓石を洗ってお花を供えたところで線香がないこと気づき、また売店に行こうとも思いましたが、ポケットのなかにタバコがあったので、タバコ2本に火を点けてタバコの好きだったジジイとババアにくれてやりました。 

僕がタバコをやめられたとしても、ここに来る度に吸ってしまいそうだなぁと思いました。そしたらジジイのババアのせいだぞと思いました。 

帰りの車中、道端に咲くヤマブキを見ながら、息子はこの花を見て何を思うだろうって考えました。一緒にこの花を見上げながら、不意にこの枝を折って盗り、手を引いて逃げたら息子はなんて言うだろう、って思いました。 

母の記憶をもう一度思い起こすと、白い箱を見おくる3歳の女の子の隣に、ぎゅっと手をつなぐ3歳の息子がおりました。