僕は二十歳くらいでした。
母親方の従兄弟の慎一が同い年なのもあって、小学生の頃から夏休みや冬休みになると僕は青梅にある従兄弟の家に遊びに行き、数日間泊まって帰るのが慣例になっていました。大学受験の歳あたりからその慣例はなくなっていったのですが、その日は久しぶりに従兄弟の家に遊びにきていました。
慎一は末っ子で、上に二人の姉がおりました。上の姉の宏美は僕らより6つ、下の姉の恵美(めぐみ:仮称)は4つ上でした。
夏の終わりのよく晴れた日で、伯父さんと叔母ちゃんはお友達とカラオケに、宏美ちゃんは仕事に、慎一はちょっとバイク走らせてくると言って出掛けており、家には僕と恵美ちゃんしかいませんでした。
僕はいい天気だったので、外に出て庭先に止めてあった原付に座ってマンガを読んでおりました。ふと、人の気配を感じて振り向くと、恵美ちゃんは家の前に止めてある自分の車の屋根に寝そべってヨガみたいなことをし始めました。
口に出した事はありませんでしたが、僕は昔から恵美ちゃんに対して憧れに似た感情を抱いておりました。
小さい頃から宏美ちゃんは僕の事を可愛がってくれましたが、それとは対照的に恵美ちゃんには何をしても冷たくあしらわれてきました。恵美ちゃんは愛想が無いという訳ではないけれど決して周りに迎合しない感じの人でした。そう言う性格もあってか休日でも家にいる事が多かったのですが、スタイルは良く、どう見ても美人でした。そんな次女を叔母ちゃんは「彼氏を連れてきた事がない」としばしば心配しておりましたが、本人は一向に意に介さない様子でした。
僕はヨガをしている恵美ちゃんにしばし見惚れておりました。
恵美ちゃんは緑のワンピースに白いカーディガンを羽織っていました。
てか、なんであんなとこでヨガするんだろ?って思っていました。なぜ車の屋根の上?と。そんな僕の視線に気づかず、恵美ちゃんは真剣に仰向けの姿勢で上げた手をフーッと息を吐きながら胸の前まで下ろし、今度は状態をひねって手を伸ばし、たところでバランスをくずして「キャッ」と車から落ちました。
僕が「大丈夫?」と笑うと恥ずかしそうに「見てんじゃねーよバーカ」と言って家の中に入っていきました。
僕がしばらくマンガを読んでいると近所の小学生くらいの女の子がやってきて、「ねぇ、恵美お姉ちゃんてスタイルだけはいいのにね」と家の屋根を指差しました。振り返って屋根を見ると、いつの間にか恵美ちゃんが屋根の上でマンガを読んでいました。若い年頃の娘が屋根の上でマンガです。僕は女の子に「だけはね」と言って笑うと、「お前、あんまり余計な事言うと親戚の縁切るからね」と言ってきました。「よく聞こえたなぁ」って思いました。
しばらくしてマンガの世界に没頭していると、急に視界が暗くなり「ちょっと、なに勝手に人の本読んでんの?」という声と共に視界の上に恵美ちゃんの綺麗な足が現れました。僕はその問いには応えずに、恵美ちゃんのワンピースの裾から伸びる綺麗な足と、その足を狙って飛んでいる蚊をぼんやり眺めていました。
「ちょっと、蚊がいるから動かないで」
と言って恵美ちゃんの足を眺めていました。
「わ、ホントだ、とって」
ワンピースの裾が地面に影を落として揺れてました。
「とまったらすぐ叩くからじっとしてて」
フワフワと飛んでいた蚊が恵美ちゃんの足に吸い寄せられた瞬間、二足歩行でやってきた小さなアライグマがその蚊を食べてしまいました。
「え?何この子?可愛い!今食べたよね?蚊を食べちゃったよね?」
という夢を見ました(笑)
さっき寝ぼけ眼で、この見てた夢を思い返しながら、
「あれ?そう言えば恵美ちゃんて今どうしてるんだっけ?」
って考え続けてました。
慎一には小学一年生の息子と、ウチの息子と同い年の女の子がいます。
宏美ちゃんには来年小学生の娘がいます。
伯父さんも叔母ちゃんも元気で、こないだも孫達を連れてウチの実家に遊びにきてたし。
あれ?恵美(仮称)は?
しばらくして、目が覚めてきて、だんだんジワジワと区別がついてきました。
前にも同じような事書いたけど(http://mixi.jp/view_diary.pl?id=924674957&owner_id=1895224)
恵美ちゃんとは夢の中でばっかり逢えるのかもしれません。
3歳の時に病気で亡くなっているので。
だから、僕や慎一は恵美ちゃんとは逢った事もないんです。
顔もはっきり思い出せるんだけどなぁ。
まぁ、まだきっと、半分寝ぼけてるんだと思います(笑)
でも夢の中では僕の中の憧れの女性の一人として存在しているみたいです。